Versus — 比較レビュー
Nansen vs Arkham Intelligence
月額$150のプロ向け分析と無料のオンチェーン探偵、どちらが「使える」のか実際に試した
A
Nansen
月額$150(Standard)/ $1,500(Pro)/ カスタム(Enterprise)
7.8/10
B
Arkham Intelligence
基本無料 / Arkham Pro(月額$50相当・ARKMトークン決済)
8.2/10
Head to Head
なぜ今この2つを比較するのか
オンチェーン分析ツールの世界は、2025年後半から明確に二極化が進んだ。片や月額$150からという強気の価格設定で機関投資家を囲い込むNansen。片や「まず無料で使ってもらう」戦略でユーザー数を爆発的に伸ばしたArkham Intelligence。筆者は両方を約8ヶ月間、実際のトレードと調査に使い込んできた。結論から言えば、この2つは「競合」というより「棲み分け」に近い。しかし予算が限られる個人トレーダーにとっては、どちらか一方を選ばざるを得ない場面が多い。Nansenの月額$150は年間で$1,800。決して安くない。一方Arkhamは無料だが、本当にそれだけで戦えるのか。この疑問に正直に答えたい。なお、筆者は機関向けサービスの検証のためNansen Proの14日トライアルも利用したが、常用は$150のStandardプランだった。この価格帯での体験を中心に書いていく。
前提条件
本記事は2026年3月時点の情報に基づく。Nansenは2025年末にUI刷新とStandardプランの機能拡充を実施。ArkhamはARKMトークンを活用したPro機能を段階的に拡張中。両者とも頻繁にアップデートされるため、最新情報は公式サイトで確認されたい。
料金体系の本音——「無料」の価値と「$150」の正体
Arkhamの最大の武器は「無料」だ。ウォレット検索、エンティティラベル閲覧、トランザクション追跡、基本的なアラートまで、課金なしで使える。正直これだけで、ちょっとしたウォレット調査やクジラの動き確認なら事足りる。Arkham Proは月額$50相当のARKMトークンで購読でき、高度なフィルタやAPI、優先データ更新が解放される。対するNansenは無料プランが存在しない。$150のStandardで入口に立ち、まともなSmart Money追跡やDeFiダッシュボードのフル機能は$1,500のProからだ。この価格差は歴然としている。ただし、Nansenの$150プランで得られるSmart Moneyの分類精度は、Arkham無料版のラベルとは質が違う。Nansenは独自アルゴリズムで「過去のパフォーマンス」に基づきウォレットを格付けしているため、単なるラベル以上の情報がある。この差に$150の価値を見出せるかどうかが、選択の分岐点になる。
“Arkhamでクジラの動きを無料で追えるのに、なぜNansenに月$150払うのか。答えは簡単で、Nansenの「Smart Money」タグは単なるラベルではなく過去収益に基づくスコアだから。追跡する価値のあるウォレットを教えてくれる点が決定的に違う。”
— crypto分析者・Twitter/X上のトレーダーコミュニティ
料金プラン詳細比較
| 項目 | Nansen | Arkham Intelligence |
|---|---|---|
| 無料プラン | なし | あり(主要機能利用可) |
| エントリープラン | Standard: $150/月 | Pro: 約$50/月(ARKM決済) |
| 上位プラン | Pro: $1,500/月 | Enterprise: 要問合せ |
| 最上位 | Enterprise: カスタム | — |
| 年払い割引 | 約20%オフ | ARKM長期ステーク優遇あり |
| 無料トライアル | 14日間(要申請) | 不要(基本無料) |
| API利用 | Standard以上 | Pro以上 |
| 決済方法 | クレジットカード・暗号通貨 | ARKMトークン・クレジットカード |
ウォレットラベリングの実力差
Arkhamが他を圧倒しているのがエンティティラベルの網羅性だ。取引所、ファンド、プロジェクト、個人のウォレットまで、100万件を超えるラベルが付与されている。しかもコミュニティのBounty機能で日々ラベルが追加されていく仕組みは、ある意味でWikipedia的な集合知だ。実際、マイナーなDeFiプロトコルの関連ウォレットや、新興VCの投資先ウォレットまでラベルされていたのには驚いた。Nansenのラベリングは量より質に振っている。ラベル数ではArkhamに劣るが、Smart Moneyのスコアリングという独自の切り口がある。「このウォレットは過去6ヶ月でDeFi運用収益率が上位1%」といった情報は、単に「これはa16zのウォレットです」というラベルとは次元が違う。ただし、NansenのStandardプランではSmart Moneyリストの閲覧に制限があり、上位ウォレットの全リストはProプランが必要だ。ここが月$150の壁をさらに高く感じさせる。
Bounty機能とは
Arkham独自の機能で、「このウォレットの所有者を特定してほしい」というリクエストをARKMトークン報酬付きで出せる仕組み。コミュニティメンバーが調査し、正確なラベル情報を提供すると報酬を受け取れる。オンチェーン探偵のクラウドソーシングとも言える。
UI/UX——ビジュアル追跡 vs ダッシュボード型
両者のUIは設計思想がまるで違う。Arkhamはウォレット間のトランザクションをグラフ状に可視化する「ビジュアルトラッキング」が売りで、資金の流れを視覚的に追える。これが直感的で、特定のウォレットから資金がどこに散っていったかを一目で把握できる。ブロックチェーン初心者でも「なるほど、ここからここにETHが流れたのか」と理解しやすい。Nansenは伝統的なダッシュボード型。DeFiプロトコルごとの資金流入・流出、NFTコレクションの分析、トークンの保有者分布など、整理されたデータが並ぶ。プロ向けの情報密度で、慣れれば効率的だが初見だと何を見ればいいか迷う。2025年末のUI刷新でだいぶ改善されたものの、Arkhamの直感性には及ばない。ただしNansenのダッシュボードは「分析の起点」として優秀で、そこから深掘りしていく導線が設計されている。Arkhamは個別ウォレットの追跡に強く、Nansenは市場全体の俯瞰に強い。
“Arkhamの資金フロー可視化は、オンチェーン調査報道の現場で革命を起こした。以前はEtherscanを何時間もクリックして追っていた資金の流れが、数分で図として見える。Nansenにはこの体験がない。”
— DeFiリサーチャー・個人ブログより
対応チェーン比較(2026年3月時点)
| チェーン | Nansen | Arkham Intelligence |
|---|---|---|
| Ethereum | ○ | ○ |
| Bitcoin | ○ | ○ |
| Polygon | ○ | ○ |
| Arbitrum | ○ | ○ |
| Optimism | ○ | ○ |
| Base | ○ | ○ |
| BNB Chain | ○ | ○ |
| Solana | ○ | ○ |
| Avalanche | ○ | ○ |
| Tron | △(限定的) | ○ |
| TON | × | ○ |
| Fantom | ○ | △ |
| zkSync Era | ○ | △ |
| 対応チェーン総数 | 40+ | 30+ |
DeFi分析の深さ——ここがNansenの真骨頂
DeFi分析に関しては、Nansenが明確に上を行く。Aave、Uniswap、Lido、MakerDAOといった主要プロトコルごとに専用ダッシュボードがあり、TVL推移、大口ポジションの変動、清算リスクのあるポジション一覧まで網羅している。筆者が特に重宝したのは「Token God Mode」で、任意のトークンについて保有者分布、取引所への入出金トレンド、Smart Moneyの売買動向を一画面で確認できる。これはポジションを取る前の最終チェックとして手放せなくなった。Arkhamにもトークン分析機能はあるが、Nansenほどの深さはない。Arkhamは「誰が何を持っているか」「どこに送ったか」というトランザクションレベルの追跡に特化しており、プロトコルレベルの構造的な分析は得意ではない。DeFi運用を本格的にやるなら、Nansenの$150は「必要経費」として正当化できる。逆に言えば、DeFi分析が不要なら、Nansenに課金する理由の半分以上が消える。
筆者の使い分け
普段のウォレット監視とクジラ追跡はArkham無料版。DeFiポジションの判断とSmart Money分析が必要な場面だけNansenを起動する。月$150の元を取るには、最低でも週3回はNansenでしか得られない情報を使ってトレード判断する必要があると感じている。
アラート機能とAPI——運用を自動化するなら
アラート機能はNansenが成熟している。特定ウォレットの動き、トークンの大口移動、DeFiポジションの変動など、細かい条件でアラートを設定でき、Telegram・メール・Webhookで通知が飛ぶ。Proプランではカスタム条件の組み合わせも可能で、例えば「Smart Moneyスコア上位100のウォレットが特定トークンを$10万以上購入した場合」といった複合条件が作れる。Arkhamのアラートは基本的な条件設定にとどまる。特定ウォレットの入出金通知やトークン移動のアラートは設定できるが、複合条件やスコアベースの条件は設定できない。ただし無料で使える点は大きい。APIに関しても差は明確だ。NansenのAPIは文書化が進んでおり、エンドポイントも豊富。自作のダッシュボードや取引botとの連携実績も多い。ArkhamのAPIは2025年に公開されたが、まだエンドポイントが限定的で、レートリミットも厳しめ。本格的な自動化を組むならNansenのAPIが現実的な選択だ。
アラート・API機能比較
| 機能 | Nansen | Arkham Intelligence |
|---|---|---|
| 基本アラート | ○(Standard以上) | ○(無料で利用可) |
| 複合条件アラート | ○(Pro以上) | × |
| Telegram通知 | ○ | ○ |
| Webhook | ○ | × |
| API公開 | ○(成熟) | ○(発展途上) |
| APIレートリミット | Standard: 100req/分 | Pro: 30req/分 |
| WebSocket | ○(Pro以上) | × |
| APIドキュメント品質 | ★★★★★ | ★★★☆☆ |
個人トレーダー vs 機関投資家——誰がどちらを選ぶべきか
ここが最も伝えたいポイントだ。個人トレーダーが月$150以上をツールに投じるべきかどうかは、運用資産額に依存する。筆者の感覚では、暗号資産のアクティブ運用額が$50,000以下なら、Arkham無料版で十分だ。ウォレット追跡、クジラ監視、基本的なトークン分析はカバーできる。運用額が$50,000〜$200,000の中級トレーダーなら、NansenのStandard($150/月)を検討する価値がある。Smart Moneyの動きを追うことで、月に1〜2回は良いエントリーポイントを掴める可能性がある。$200,000以上でDeFi運用を本格的にやるなら、Nansen Proの$1,500/月も投資対効果が出る世界だ。機関投資家にとってはNansen一択と言っていい。コンプライアンス対応のレポート機能、カスタムダッシュボード、専任サポートはArkhamにはない。逆にリサーチ部門やジャーナリストにとっては、Arkhamの資金フロー追跡とBounty機能が代替不可能な価値を持つ。
“うちのファンドではNansen Enterpriseを使っている。正直、月額の数字だけ見ると高い。しかしポートフォリオの0.01%未満のコストで、Smart Moneyの動向をリアルタイムに把握できるなら安いものだ。個人で同じ体験を得るのは厳しいだろうが。”
— 暗号資産ファンドマネージャーのインタビュー記事より
2026年の進化と今後の展望
2026年に入り、両者の進化の方向性がより鮮明になった。Nansenは2025年末のUI刷新に加え、AI要約機能を実装。トークンやプロトコルの状況をAIが自然言語で要約してくれる機能は、情報過多に悩む中級者には助かる。ただし、要約の精度にはまだ課題がある印象だ。Arkhamは2025年にARKMトークンのユーティリティを拡大し、Pro機能への課金をトークン決済で一本化する動きを見せている。Bounty機能のエコシステムも成長し、ラベル数は1年前の2倍以上に増えた。対応チェーンの拡大ペースも速く、TONやTronへの対応でアジア圏のユーザーを取り込んでいる。競合環境として注目すべきは、Dune AnalyticsやDefillama等の無料ツールの進化だ。しかしNansenの「Smart Money分析」とArkhamの「エンティティ追跡+Bounty」は、それぞれ独自のポジションを維持している。今後はAI統合とクロスチェーン分析の精度が、差別化の鍵になるだろう。
最終結論
NansenとArkham Intelligenceは同じ「オンチェーン分析」でも、用途と対象者が明確に異なる。Nansenは月額$150以上のコストに見合うだけのSmart Money分析とDeFiダッシュボードを提供し、中〜大規模運用者と機関投資家にとっては必須ツールだ。Arkhamは無料で驚くほど使えるウォレット追跡とエンティティラベルを提供し、個人トレーダーやリサーチャーの強い味方になる。迷ったらまずArkham無料版で始め、物足りなくなったらNansen Standardを検討するのが最も合理的な順序だ。
Nansenを選ぶべき人
- →DeFi運用を本格的に行い、プロトコル分析が日常的に必要な人
- →Smart Moneyの動向を根拠にしたトレード判断をしたい中〜上級者
- →機関投資家やファンドで、コンプライアンス対応のレポートが必要な人
Arkham Intelligenceを選ぶべき人
- →コストをかけずにクジラ追跡やウォレット監視を始めたい個人トレーダー
- →資金フローの可視化を使ったオンチェーン調査やリサーチがしたい人
- →Bounty機能を活用して情報収集しつつARKMトークンも稼ぎたい人